顧問先の経営者から、同業者団体の海外視察に関する経理処理について質問を受けました。
海外視察に関する費用は、どこまで経費にしていいのか悩むところです。
海外渡航費については、国税庁の通達があるので、それに従って税務上の取扱いについて解説します。
海外渡航費の取扱い
同業者団体の海外視察については、業務の遂行上必要なものであり、社会通念上相当と認められる範囲内の金額であれば旅費として処理することが認められます。
国税庁の通達では、海外視察に該当するものとして、次のようなものが示されています。
- 工場、店舗等の視察、見学又は訪問
- 展示会、見本市等への参加又は見学
- 市場、流通機構等の調査研究等
- 国際会議への出席
- 海外セミナーへの参加
- 同業者団体又は関係官庁等の訪問、懇談
したがって、上記のような内容の海外渡航費については、常識の範囲内の金額であれば、経費にしてもいいということです。
ただし、次に該当するような旅行については、海外視察に該当しないとされています。
- 観光渡航の許可を得て行う旅行
- 旅行あっせんを行う者等が行う団体旅行に応募してする旅行
- 同業者団体その他これに準ずる団体が主催して行う団体旅行で主として観光目的と認められるもの
その旅行の目的が明らかに「観光」であれば、経費にすることはできないということです。
それでは、海外視察のついでに観光をしたときは、どのように判定するのでしょうか?
これについては、国税庁の通達で、次のように示されています。
法人の役員又は使用人が海外渡航をした場合において、その海外渡航の旅行期間にわたり法人の業務の遂行上必要と認められる旅行と認められない旅行とを併せて行ったものであるときは、その海外渡航に際して支給する旅費を法人の業務の遂行上必要と認められる旅行の期間と認められない旅行の期間との比等によりあん分し、法人の業務の遂行上必要と認められない旅行に係る部分の金額については、当該役員又は使用人に対する給与となります。
つまり、その海外渡航について、業務に関連する部分は旅費で、観光に関する部分はその役員等の給与になります。
損金算入額又は必要経費算入額の計算
海外視察に観光が含まれるときの、損金の額又は必要経費の額となる「旅費」の計算方法について見ていきます。
旅行のうちに占める海外視察と観光の割合を確認するのに、次のような情報が記載された日程表などが必要になります。
- 団体旅行の主催者、その名称、旅行目的、旅行日程、参加費用の額等その旅行の内容
- 参加者の氏名、役職、住所
海外渡航費は、税務調査で確認されやすい項目なので、海外視察の日程表などの旅行内容がわかる資料は必ず保管をしておきましょう。
損金の額又は必要経費の額を求めるステップは、次のようになります。
- 旅行日程を目的別にわける
- 業務従事割合と損金等算入割合を算定する
- 損金又は必要経費の算入額を求める
①旅行日程を目的別にわける
まずは、旅行日程を「視察等」「観光」「旅行日」「その他」に分けます。
- 視察等:視察等の業務に要した日数
- 観光:観光等に要した日数
- 旅行日:目的地までの往復及び移動に要した日数
- その他:土曜日又は日曜日等の休日の日数
この日数は、通常の業務時間(8時間)を1日と換算し、0.25日(2時間)を1単位にして割り振ることになっています。
②業務従事割合と損金等算入割合を算定する
旅行日程を目的別に分類したら、次に業務従事割合と損金等算入割合を求めます。
業務従事割合は、旅行日程のうちの視察等と観光の日数を利用して、次のように計算します。
業務従事割合=視察等の日数 ÷(視察等の日数+観光の日数)
そして、業務従事割合を10%単位で区分したものが、損金等算入割合(10%未満は四捨五入)となります。
たとえば、視察等の日数が3日で、観光の日数が1日だったとします。
視察等が3日÷(視察等が3日+観光が1日)=75%
この場合は、業務従事割合が75%となり、損金等算入割合は80%(5%を四捨五入)となります。
③損金又は必要経費の算入額を求める
最後に、業務従事割合と損金等算入割合をもとに、損金又は必要経費に算入する金額を求めます。
国税庁の通達では、次のような区分に応じて旅費となる金額を求めることになっています。
- 業務従事割合が90%以上:全額損金又は必要経費算入
- 業務従事割合が50%以上:往復の交通費+(その他の費用×損金等算入割合)
- 業務従事割合が50%未満:海外渡航費の全額×損金等算入割合
- 業務従事割合が10%以下:全額損金又は必要経費不算入
②のケースは、業務従事割合が75%で損金等算入割合が80%であるため、次のような計算で旅費の金額を求めます。
往復の交通費+(その他の費用×80%)
往復の交通費は全て旅費となり、その他の費用は損金等算入割合を掛けたものが旅費と扱われます。
海外視察の同伴者判定
海外視察に家族等の同伴者がいたときは、その同伴者が役員又は従業員であれば旅費として処理することができます。
また、国税庁の通達では、次に該当するときは、同伴者が業務に従事していなくても、損金又は必要経費に算入してもいいことになっています。
(1) その役員が常時補佐を必要とする身体障害者であるため補佐人を同伴する場合
(2) 国際会議への出席等のために配偶者を同伴する必要がある場合
(3) その旅行の目的を遂行するため外国語に堪能な者又は高度の専門的知識を有する者を必要とするような場合に、適任者が連結法人の使用人のうちにいないためその役員の親族又は臨時に委嘱した者を同伴するとき
海外渡航費は、税務調査の際に確認されやすい項目です。
そのため、旅行日程表などの内容がわかる資料を、しっかりと保管しておくことが大切です。
編集後記
昨日は、終日確定申告の処理を。久しぶりに大量の入力作業をしました。